Atmophの共同創業者、ソフトウェアエンジニアの中野です。
本日は、Atmoph Window 2のSoundscape(サウンドスケープ)機能を共同で開発してくださっている音楽家の安田寿之さんに、この機能を実装した経緯や画期的なポイントなどについてお聞きしたインタビューをお届けします。
安田寿之
音楽家。音楽環境研究所合同会社代表。武蔵野音楽大学講師。90年代中盤よりFPMとして活動後、2000年に1stアルバム「Robo*Brazileira」を発表。以降、コンセプチュアル作からシンガー・ソングライター的な作品まで、既成概念に捉われない制作/リリース方法で手がける。「Red Hot + Rio 2」に、Beck、Caetano Veloso、Bebel Gilberto、David Byrneらと共に、Red Hotシリーズ17作目で初めて日本から参加。5thアルバム「Nameless God’s Blue」では、J-Waveチャートにて6週にわたりランクイン。内外・ジャンル問わず共作・共演。広告、メディアへの制作も多数。The Institute of Music and Environment(TIME)代表として、多様な音楽のリリースのコンサルティングも120作品近くになり継続中。
Soundscape機能って何?という方は、まずはこちらをご覧いただくと分かりやすいかもしれません。version 3.5 でも2つの新規Soundscapeテーマ(woods, fall)が追加されていますので、是非こちらをオンにしながら、以下のインタビューをお楽しみください!
Atmoph共同創業者、ソフトウェアエンジニア中野(以下「中野」):安田さん、お時間を作っていただきありがとうございます!本日はよろしくお願いいたします。version 3.5でも2つのSoundscapeテーマ追加、ありがとうございました
安田寿之(以下安田):新しいバージョンのリリース、おめでとうございます。Soundscapeの内容についてはどこかで話せる機会があるといいなと思っていたので、ありがたいです。
Atmophとの出会い
中野:最初のきっかけからお伺いしたいのですが、そもそもどのようにAtmophの事を知ってくださったんでしょうか。

安田:実は今回の仕事で興味を持ったわけではなく、2019年のIndiegogoのクラウドファンディングで比較的アーリーアダプターとして購入していました。今でこそAtmophの開発チームの方とは仲良くさせて頂いていますが、このような形でお仕事でご一緒する前から、Atmoph Windowの事は知っていてファンだったんです。
中野:そのように言って頂き本当に嬉しいです。ありがとうございます!Atmoph Windowのどのような部分を気に入ってくださったんでしょうか。
安田:機能はもちろんですが、大きさと形です。なぜこの大きさと形が素晴らしいと思ったのかには理由があります。

2013年に「一点物の音楽」というコンセプトで「音楽家の写真展」という企画を開催したのですが、音楽と写真が一体になったプロダクトを作りました。当初Arduinoを使って作りかけたのですが、設計していくとあるものに近付いていきました。それは、皆さんお なじみのiPadです。洗練させていくとどうしてもそれになっていくことに気付き、デジタル的な方向は変え、結果的に知り合いの家具屋さんとウォールナットの美しいフレームでiPod shuffleが格納できるような形になりました。
音楽家の写真展
http://www.toshiyuki-yasuda.com/2013/03/photoexhibition.html
そういう経験があったので、Atmoph Windowを見た瞬間に、このデジタルデバイスはとてつもない試行錯誤を経て独自の形と大きさに行き着いた事がわかりました。
中野:ありがとうございます。そのように言っていただけて救われます。
安田:その後製品が届く前から、今のSoundscapeの様な機能があったらいいかもしれないという構想は持っていて、こういう機能はどうでしょうという提案をAtmophの皆様にさせて頂きました。
中野:僕(Atmoph中野)自身がRobo*Brazileira の頃から安田さんの音楽が好きでずっと聴いて来たので、ご連絡を頂いた時は本当に驚きました。このような形で一緒にお仕事させていただけるのがとても光栄です。

https://megadolly.theshop.jp/items/11727052
安田:いえいえ、こちらこそありがとうございます。
中野:機能開発において音楽家の方と一緒に一つの機能を作ると言うのは初めての経験だったので緊張していたのですが、Soundscape機能は普通の音楽再生機能ではない、Atmoph Windowでやる意義のある機能になりましたよね。
今回Atmoph Window 2のシステム更新version 3.5の準備をする中で、新しく追加されたSoundscapeテーマのサウンドファイルを確認させていただいていたのですが、改めて「これはとてつもない仕事だ」と感じました。
一つのレイヤーが3時間を超えるような録音になっており、実際の演奏家の方にとっても、編集して全体のバランスを整える安田さんにとっても、きっと新しいタイプの仕事だったのではと想像します。
安田:そうですね、チェックもかなり大変だったともいますが(笑、ありがとうございます。このような形になって構想が実装されるのは面白いですし、楽しんでお仕事させていただいています。
上演型音楽から、参加型音楽へ
中野:安田さんは現在音楽環境研究所(The Institute of Music and Environment)として、ご自身のアーティストとしての活動以外の実験的な試みもされていますが、AtmophのSoundscapeもまさにMusic & Environmentの実験的な実装とも言えますね。
安田:環境というのは便利な言葉ですよね。人間の生活や社会、それらとの音楽の関係性をアップデートしていくということを目的にやってきています。
中野:ご自身の作品やテレビドラマへの楽曲提供の他に、「ヴァージョン・アップ・ミュージック」のような新しい取り組みもされます。Soundscapeもそういった面で非常に実験的な取り組みだと思うのですが、このように一般的な音楽家の仕事の範囲を飛び越えた活動をされているのには、安田さんの中に何か特別なモチベーションがあるのでしょうか。
安田:そうですね。例えば、たった一音だけで場の空気を変えてしまうような音楽家がいます。僕の中ではLaufeyやJoey Dosikはまさにそういったミュージシャンなのですが、そういった人達は演奏そのもので観客を感動させることが出来ます。

おそらくカレン·カーペンターやエリス·レジーナも恐らく目の前にいれば身震いするような音楽家だったんだと思います。そういった人達は何もややこしいことを考えずに、自分達の音楽で人を幸せな気持ちにすればいいんだと思います。
アイドルなどのエンタテイナーもそうで、自分のパフォーマンスでファンを幸せな気持ちにすることが出来ます。
20世紀の音楽を僕は「上演型音楽」と呼んでいます。すごい作曲家が作った音楽をすごい演奏家が演奏し、それを聴衆が聴いて拍手喝采するというスタイルです。そういう人達を育てるために音楽教育もありました。
21世紀に入り、CDなどの音楽ソフトが売れなくなったという話をよく聞くようになりました。その事が「若者が他のことにお金を使うようになった」ということにすり替えられる事が多いですが、僕はそれは違うと思っていいます。音楽の形も、時代に合わせてアップデートしていかないといけないはずだからです。
一言で言えばそれは「上演型音楽」に対して「参加型音楽」という事になるのですが、例えば先ほどの「ヴァージョン·アップ·ミュージック」のような形でその事に取り組んでいます。
中野:ソフトウェアの世界ではソースコードをバージョン管理して更新していくという事は普通ですが、音楽でそれをやるというのはとても新鮮でした。
安田:とても実験的に聞こえるかもしれないですが、実は聴衆のフィードバックを受けて次の演奏を変える、というのはメディアができる前の19世紀までの音楽の世界では普通に行われていたことなんですよね。それが制作環境がデジタルになったり、音楽を届ける方法が配信になった事でまた可能になったわけです。
また、例えばお祭りの音楽などに関しても、参加型の音楽ですよね。盆踊りもプロの盆踊りダンサーの上演をみんなが眺めるわけではなく、聴衆も参加して楽しむわけです。
そのようなみんなの生活の中にある音楽、というが一つの可能性だと思っています。Atmophはすでに生活の中にあるデバイスなので、そのAtmophと音楽の可能性に関してはとても面白いなと思っていました。
音楽の効用
中野:AtmophのSoundscapeは、ヘッドフォンをして積極的に音楽を鑑賞する、というような通常の音楽体験とは違いますもんね。
安田:そうですね。ただ今はそういうものも、そこまで特別では無いかもしれません。Spotifyとかを見ると通常の音楽ジャンルに加えて、「ウェルネス」や「ジムで聴く音楽」みたいなものもあったりします。
この前驚いたのは「ホワイトノイズ」と言うプレイリストです。いろんなアーティストのアルバムがあって300曲くらい入っているのですが、どれを聞いてもホワイトノイズなんです(笑
White Noiseプレイリスト(Spotify)
中野:それはかなりシュールですね(笑
安田:ただそれがすごくニッチなジャンルで、特定の人だけが聞いてるのかと言うとそんな事もないんです。「ブラウンノイズ」「ピンクノイズ」みたいなものも含めると、100万人以上の人が聴いていたりします。
メロディを聴いて感動する、というのももちろん素晴らしいのですが、そうではない音楽というのを求めている人も、実際にこれだけ存在しているんですよね。
中野:すごい世界になってますね、、!そういった方はノイズを聴いて「落ち着く」とか「リラックスする」みたいなある種の効用を求めて聴いている感じなんでしょうか。
安田:恐らくそうだと思います。ホワイトノイズの音って滝の音っぽくもあるんですよね。例えば一人暮らしだったりして無音が逆に落ち着かないとか、そういう人が思うよりたくさんいるって事なんだと思います。
中野:Soundscapeに関してはノイズほど前衛的ではないのですが、それでも安田さんが今まで作られてきた楽曲、例えばテレビドラマ向けの楽曲とは大きく違うものだと思います。この辺りで、どういうバランスにしよう、みたいな構想はあったのでしょうか。

安田:まずAtmophに関しては、実際の生活空間の中にあるというのがとても重要なポイントです。これまで自分がリリースしてきた楽曲とは考え方を変える必要がありました。
生活の中にあるというのはすごく可能性がある部分だと思いつつ、聴く人によって個人差があるという点にも注意が必要です。
例えば家庭で使われたり会社で使われたりする場合、聞く人によってどういう音が心地よいのかというのは変わるわけです。
そこで音楽の「厚み」を変えるというアプローチを思いつきました。
音楽の厚みを変える
中野:その発想が本当に新しいポイントですよね。その辺りの着想をどこから得られたのかも伺いたかったです。

安田:実際に Atmoph Window 2 の実機で音を鳴らしてイメージを膨らませていたのですが、Atmophには風景の音がもともとあります。この様なすでにある音や天気などの情報から音楽を自動生成する方法も面白いそうだと思っていたのですが、同時に実際にはとても複雑になるだろうとも感じていました。
その後Atmophの開発チームの方とも議論を重ねていく中で、風景カテゴリ毎に5レイヤーくらいに分けて、それを重ねて音楽を作るという方法がバランスが良さそうだ、となりました。
レイヤー1と2は全風景共通でUhito Kiyosueさんが作ったオリジナルピアノアプリで、僕が演奏と編集をしています。
Soundscape on Atmoph Window 2
http://www.toshiyuki-yasuda.com/2022/05/
レイヤー3,4 が風景カテゴリによって変わる部分で、この部分はプロの演奏家の方に実際に演奏していただいたものを録音して編集しています。
レイヤー5はそれらを統合するようなトラックを僕の方で作っています。
全てのレイヤーがループ再生されているのですが、レイヤー5以外はそれがわからないようにしたい、動的に生成されているかのように聴こえるようにしたい、という意図があり時間はかなり長いものになっています。
中野:しかもこのそれぞれのレイヤーがランダムにずらされて、いつ聴いても違うサウンドになるというのがユニークな点ですよね。
安田:そうですね。本当はハードウェア上で毎回動的にサウンドを生成するというのが理想だと思うのですが、もっと単純に長さの違うトラックのオフセット(再生位置)をずらすだけで簡単に出来るのでは無いかという話を Uhito Kiyosue さんともしていました。
その為には各レイヤーで「また同じフレーズが来たな」と感じない程度の長さが必要で、今回追加されたfallテーマでは3時間にもなってしまいました(笑 編集はそれなりに大変ですが、新しいチャレンジなので楽しんでやっています。
また、毎回新しいサウンドが作られるが故に、著作として固定されないというのも重要なポイントです。音楽家にとって著作権はとても重要な権利ですが、それをあえて手放すことで、この新しい仕組みから何かが生まれるのではと思っています。
中野:この5レイヤーの構成で、最終的なサウンドがうまく成立しそうだというイメージはあったのでしょうか?
安田:僕にとっても新しいチャレンジなので、トライアルアンドエラーで良いものを作ろうとしています。今回のバージョン(version 3.5.7)でも実は水辺のテーマや共通部分のレイヤー2の音の間隔などを調整しているのですが、実際に自分も生活の中で使いながら、微調整しています。
特殊な音作りを支える、素晴らしい演奏家達
中野:サウンドの方向性として意識している部分などはあるのでしょうか。例えば通常の楽曲制作では曲の主題やコンセプトがあったり、ドラマの楽曲であればシーンによって特定の感情表現が求められることがあると思います。
安田:特定の気分に紐づくような音にはしないように注意しています。心地よいものでありつつも、特定の感情を押し付けないもの、そしてあわよくば風景が出来るだけ美しく感じられるものであるといいなと思っています。

具体的な音作りに関して言えば、和音の出ない楽器と出る楽器を特性を活かして使っています。例えばクラリネットなどのリード楽器は和音が出ない分、特定のムードに結びつきにくいです。
ヴィオラ・ギター・マリンバなどの楽器も使っていて、これらの楽器ではもちろん和音を出せるわけですが、演奏者の方には3和音以上は使わず、なるべく2和音までで弾いてもらうようにお願いしています。複数レイヤーが重なってきて複雑な和音になると、どうしても特定の感情を規定するように感じられる事があるので、そうなりにくいようにディレクションしています。
中野:レイヤー3,4に関してはソフトウェア音源のようなもので作っている音ではなく、実際の演奏家の方が即興的に演奏したものを、安田さんが再構築するという形で作られていて、これがサウンドに高級感を与えていますよね。
安田:そうですね、音色がすごく大事だと最初から思っていました。ただその音色だけが欲しいわけではなく、誰にでも演奏できるように思えるものだからこそ、熟練した演奏家の方にお願いしたいと思っていました。
複雑なフレーズを譜面を見ながら弾くというものではないので、演奏の「引き算」が出来るレベルの方にお願いしています。感情を規定するようなものでは無いけど、生身の人間の経験の蓄積から生まれるダイナミクスがあるっていう部分が、Soundscapeのサウンドの豊かさになっている気がしますね。AIクリエイティブ時代の次を見越しているつもりです。
中野:本当ですよね。こんなに素晴らしい演奏家の方が演奏してるんだよ!というのをAtmophのユーザに知らせたいというのも、この記事を書いているモチベーションの一つでした。今回初めて公開されるのですが、実は以下のような方がSoundscapeの演奏をしてくださっていました。豪華!
woodsテーマ
土井徳浩 / クラリネット
中高吹奏楽部で 故 浜田伸明氏にクラリネットの手ほどきを受ける。 高校卒業後、YAMAHA音楽院にてクラシックのクラリネットを故 内山 洋、サックスを原ひとみ、ジャズ・サックスを吉永 寿の各氏に師事。
K-Ta / マリンバ
物理法則で成り立つものは仮想も現実もなんでも演奏するMARIMBAプレイヤー。蓮沼執太フィルのメンバーとして活躍するほか、自身のバンドminimalAcousticsでは、鍵盤打楽器に加えシンセサイザーやトラックメイクもこなし、Bassも演奏するなど、その活動は多岐にわたる。
fallテーマ
助川太郎 / ギター、トンコリ
ギタリスト/作編曲家。 1973年東京生まれ。2001年 Berklee college of music ギター科卒業。ごく限られた範囲のジャズ、ブラジル音楽、南米音楽、現代音楽を深く愛し、日々クラシックの小品を弾く。近年は生音ソロギターライブを創作の中心としつつ、様々なジャンルのミュージシャンとプロジェクトを展開中。その成果として生まれた作品をウェブショップ”鹿村堂~ROKUSONDO~”で発表している。目指すのは「シンプルで上質な音楽」 2021年9月最新オリジナル作品集「レクイエムンド」をリリース。趣味:読書、水泳、サウナ、珈琲
河村泉 / ヴィオラ
東京藝術大学音楽学部器楽科卒業。国内外の主要オーケストラの客演や室内楽、スタジオワーク、ライブサポート等を中心にクラシック、ジャズ、ポップスなど幅広いジャンルで活動中。これまで共演したアーティストは、今井美樹、WANIMA、星野源、椎名林檎、GReeeeN、家入レオ、水樹奈々、桑原あい、藤巻亮太、伊東歌詞太郎、他多数。
でも演奏している際に、演奏家の方は「自分は一体何をやらされてるんだ。。」とはならなかったんでしょうか(笑
安田:普通の仕事では無い感じはしますね(笑
演奏してもらう際には、ひとつのフレーズが長くなりすぎないようにお願いしています。これは後で再構成する際に難しくなるのと、ループ感を感じにくくする為です。後は先ほどの「複雑な和音を使わない」という点、そして、すごく主張する演奏ではなくその楽器が一番綺麗に聞こえるような演奏、というポイントをお伝えして後は即興でお願いしています。
一回1時間くらいで録音して、それを2~3回やるときもあります。例えばヴィオラであれば弓で弾くのと、ピチカート(指で弾く)弾き方がありますが、それを分けて収録したりします。
中野:かなり大変な作業ですね。。
安田:ランダムに配置し直す編集作業にも時間をかけています。どうしても人間が弾くと似たフレーズが固まってしまうので、それをフレーズ毎に分解して、間隔を空けてランダムに配置する必要があります。
その結果として数時間のオーディオファイルになったりするのですが、新しいチャレンジを楽しく作業しています。
中野:どの楽器を使うかというのは、風景のタグに合わせて安田さんの方で選んでくださってるのでしょうか。
安田:そうですね、その辺りは実は慎重に計画しています。ある程度の個数のテーマを作って行きましょうというのはAtmophの開発チームの方と相談しながら決めているのですが、その複数テーマに関して楽器が被らないように割り振っています。
「やはりあの楽器はこのテーマで使っておけば良かった」とならないように、事前のプランが重要だなと感じています。
中野:現在「sea」「woods」「fall」の3つのテーマが実装されているわけですが、これらの開発を通じて何か感じたことなどはありますでしょうか。
安田:徐々にこのSoundscape機能のプロになって来ましたね(笑
fallは今までのテーマの中でも一番うまく行ったんじゃないかという手応えがあります。
中野:fallテーマ凄く良いですよね。
安田:僕自身も実際の生活の中で使う中で、もっとこうした方が良かったかな、という部分も出てくるので、実はそういった細かい修正をバージョンアップのタイミングで反映したりしています。
ブライアン・イーノが「自分は音楽の建築家というより造園家に近い」ということを話している(Composers as Gardeners )のですが、まさにそのような形で、人為的な調整を実はしてるんだけどそれを感じさせず、自然にそうなっているように感じられる、というのもいいんじゃないかと思っています。
今回のバージョンでレイヤー2の音の間隔を変えたのですが、それが日本庭園の剪定のような調整なのかもしれません。別にそれに気づかれなくても、それはそれで別に問題ないわけです。
調整できる、未来の音楽
中野:Atmophの開発チームではAtmoph Window 2のそれぞれの機能がどのように使われているかの統計情報を取れるようにしているのですが、Soundscapeを使っている人の40%くらいのユーザがレイヤー5まで鳴らす設定にしているようです。なので半分近くの人が多くの音色を鳴らして楽しんでいる感じですね。

安田:そうなんですね。前にソーシャルメディアで「レイヤー1, 2 までくらいがいいかも」という意見も見て、複雑な気持ちになったりもしたのですが(笑、でも凄く重要なポイントで、まだまだ音の余白が必要な人もいるということですね。
中野:でもそういう人がレイヤー1, 2 だけに出来るっていうのがこの機能のすごいところですよね。普通にポップスを聴いてる人が「この曲、ドラムとベースだけでいいかな」とは出来ないわけですし。普通の音楽家の方であれば、「自分が思うベストな形で聴くべきだ!」となりそうな気もしたのですが、安田さんはそうはならなかったのでしょうか。
安田:そうですね、これは前半の話とも通じる話でもあるのですが、「個人の快適」と「社会の快適」をどうすり合わせていくかというのは21世紀の大きなテーマだと思っています。
例えば、たくさんの人がいる部屋の空調で考えると、ある人は凄く暑く感じてるけど、別の人はとても寒い、みたいなことは普通にあります。今はまだそうなってはいないですが、本当であれば、暑い人には冷風、寒い人には温風を別々に届けられるのが理想です。
音楽においてもこれと同じ考えが出来て、同じ音楽でも人によって様々な調整が出来るようになる未来が来るのではと思っています。コンテキストによって聞きたい音と聞きたくない音を分ける、みたいな話も、ノイズキャンセリング技術や超指向性スピーカーなどによって既に出来ている話ですよね。
Soundscapeにおける「厚みを変えられる」というのは、そう言った未来へ向けての第一歩だと思っています。
中野:本当にそうですよね。
例えば僕自身の使い方で言うと、 朝デイリールーティーン機能(特定の時間に特定のアクションを実行する機能 )でデバイスがオンになると同時に今日の予定を表示して、そのタイミングでSoundscapeも最大の厚みで流れるようにしています。その後、子供が学校に行く時間になると徐々に厚みが減っていって、自分が家を出るときにはOFFになる、みたいな使い方です。
これはいわば生活のコンテキスト(リズム)にわせて音楽を調節していっている感じで、未来的ですよね。
安田:それはなんというか、Atmophのプロの使い方ですね(笑

中野:そうかもしれません(笑
安田:家に誰もいない時間帯はOFFにするようにしてるんですか?
中野:そうですね。デイリールーティーンでそう設定しています。その方がエコだと言うのもありますが、自分の生活に合わせて Atmoph Windowは勝手にいい感じの動きをしてくれる、という状態が理想だなと思っています。
こういった事が出来るのも、音の厚みを調整できる今のシステムがあるからこそなので、いつも凄いなと思いながら使っています。
Soundscapeのこれから
中野:今後このSoundscapeの仕組みの中で挑戦したいことなどはあるのでしょうか?
安田:今は次の「Night」テーマを製作中です。
楽器をバラしてしまうと楽しみがないと思うのでそこはまだ秘密なのですが、まだ出て来ていない新しい楽器が登場する予定です。
今までは sea, woodsなどまずは「多くの風景が含まれているテーマ」を重点的に追加して来たのですが、これからは「風景の数は少ないけども特徴的なテーマ」にも取り組んでいきたいなと思っています。例えば宇宙とかクリスマスなどですね。
中野:ありがとうございます!今日はありがとうございました。これからもSoundscapeを通じで安田さんや演奏家の方達がどういった音楽を僕達の生活に届けてくださるのか、とても楽しみです。
安田:こちらこそありがとうございました。
楽しんで機能開発をさせて頂いています。これからもよろしくお願いします。
いかがででしたでしょうか。非常に濃いインタビューになりましたね、、!Atmophの開発の中でも「個人のコンピューティングと、場のコンピューティング」というのよく議論になるテーマなので、安田さんの持っている問題意識と深い部分で繋がっている事がとても感動的でした。
これからも新規のテーマ追加、新しい機能の開発などを行なっていくのでご期待くださいませ。
プレゼントキャンペーン!

今回 version 3.5での新テーマ追加を記念して、僕の大好きな安田さんのアルバム「Nameless God’s Blue」に、サインをいただいたものを抽選で5名様にプレゼントするキャンペーンを実施します!
<キャンペーン概要>
期間:12月15日(木)~12月25日(日)
応募方法:
Twitterかinstagram で「#atmoph #soundscape」のタグを付けて、Soundscapeに追加してほしいテーマか、「こんな風にAtmoph Window 2 を使っているよ」という内容を投稿をして下さい。
プレゼント:
Toshiyuki Yasuda: Nameless God’s Blue(CD) サイン入り / 抽選で5名
当選の通知方法:
厳正な抽選の上、Twitter/InstagramのAtmoph公式アカウントからDMにて当選者のみにご連絡させていただきます。
是非奮ってご応募くださいませ!